「鉄鋼材料の実務知識」の第4回「鋼材の損傷機構について」に示した「腐食」をさらに詳細に分類して解説する。
損傷 | 解説 |
アルカリ割れ | 苛性アルカリ脆化は表面亀裂からの応力腐食割れ形態で配管や機器が苛性アルカリ環境に曝された部位で起こり、溶接後熱処理をしていない溶接部近傍で著しい。 |
苛性ソーダ割れ | |
アミン割れ | アミン割れは、気体・液状の炭化水素からH2SやCO2を除去するために用いられるアルカノールアミン溶液中における引張応力下の腐食による割れと考えられる。アミン割れはアルカリ応力腐食割れを生じる。溶接後熱処理されていない炭素鋼溶接部に接する部分や冷間加工部で生じることが多い。 |
カーボネート割れ | カーボネート割れは炭酸塩環境における引張応力と腐食作用の混在する溶接部に面する亀裂や表面割れである。アルカリ応力腐食割れ(ASCC)形態である。 |
炭酸SCC | |
CO-CO2-H2O SCC | CO-CO2-H2O環境における炭素鋼の応力腐食割れは化学プラント配管系の溶接部、都市ガス容器などで報告されている。CO2ガスを溶存する水環境で炭素鋼は湿性炭酸ガス腐食と呼ばれる速度の大きい腐食を受ける。COガスが共存すると、金属表面へのCOの吸着により腐食反応が抑制される。このような条件で応力腐食割れが生起する。割れ形態は粒内応力腐食割れであって、アノード分極は割れ傾向を加速するから、この割れもHE機構によるものではなく、アノード溶解型の機構によるものと考えられる。合金元素としてのCrが割れ感受性抑制に効果的であって、5〜9%Cr-Mo鋼以上の材料は実用上割れに免疫と考えてよい。また、焼入れ焼き戻し材に比べて焼きならし材の割れ感受性は小さい。対策としては、9Cr-1Mo鋼あるいはType304ステンレス鋼への材質変更あるいは応力除去焼きなましの適用がなされている。 |
ポリチオン酸SCC | 通常、空気と水分があるときに装置停止時・再稼動時や運転中に起こる応力腐食割れ形態。感受性のある硫化物酸の上で空気、水分、硫化物スケールが反応することにより形成する硫化物酸が原因で割れる。通常は溶接部近傍や応力の高い部位で起こる。割れは急速に数分・数時間で配管や備品の壁内に進展する。 |
塩化物SCC | 引張応力、温度、湿潤塩化物環境が同時に働く場合、表面の初期亀裂は300シリーズステンレスやニッケル基合金における環境割れの原因となる。溶存酸素の存在で、割れの傾向が高くなる。 |
水素応力割れは高強度低合金鋼や炭素鋼の溶接部・熱影響部の高硬度領域の表面が湿潤フッ化水素酸環境に露出してしまうことで発生する環境割れである。 | |
フッ酸中SOHIC | |
シアンSCC | シアン溶液中のSCC |
アンモニアSCC | アンモニアを含む蒸気の湿性環境で銅合金に見られる応力腐食割れ。無水アンモニア中の炭素鋼はSCC感受性がある。 |
硝酸塩SCC | 硝酸塩環境における典型的な粒界型応力腐食割れである。NO3-の濃度が高いほど割れやすく、温度も高いほうが割れやすいが室温でも割れる。割れ感受性を示す電位域は広く、75℃、pH=7では0〜0.6V vs SHEである。炭素鋼、低合金鋼は硝酸塩水溶液環境では通常不働体にあるが、結晶粒界は主に偏析したC原子などに起因して活性が高いため、無負荷状態では粒界感受性を示し、応力が負荷されると粒界応力腐食割れ感受性を示す。 |
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木原重光