1.はじめに
前回までに金属材料における損傷劣化機構を網羅した表を掲載した。大分類として、疲労、腐食(乾食、湿食、応力腐食割れ)、磨耗、エロージョン、クリープ、冶金的劣化、その他に分類され、詳細の機構として160に及ぶ機構が存在することを示した。
これらの損傷劣化機構の発生の結果は、色々な損傷形態として現われ、また、発生には必須条件がある。損傷の形態と発生必須条件を知ることで、損傷原因の解明、損傷の防止に役立てることができる。
表1に損傷劣化機構に対する損傷形態および発生必須条件を示す。
表1 損傷劣化機構に対する損傷形態および発生必須条件
損傷劣化機構 (大分類) |
損傷形態 |
発生必須条件 |
疲労 |
割れ(き裂発生→伝播→破断) |
応力(ひずみ)の繰返し |
腐食 |
乾食 |
減肉(全面的) |
環境 |
湿食 |
減肉(全面的) |
環境 |
減肉(局部的)(孔食) |
環境 + 材質 |
応力腐食割れ(SCC) |
割れ(き裂発生→伝播→破断) |
環境 + 応力 + 材質 |
磨耗 |
減肉(全面的) |
摺動 |
エロージョン |
減肉(全面的) |
流体中 |
クリープ |
変形、割れ(ボイド形成→き裂発生伝播→破断) |
温度 + 応力 |
冶金的劣化 |
強度、靭性、耐食性の低下の結果として、脆性破壊、腐食減肉、応力腐食割れ |
温度 + 材質 |
侵食による割れ、膨れ |
環境 + 材質 + 温度 |
2.破損原因解明
構造物で破損トラブルが生じた場合、先ずは損傷形態から、その原因(機構)を推定することができる。
2.1 割れが発見された場合
一定期間使用した設備、機器などに割れが見つかった場合、疲労、応力腐食割れ、クリープ、侵食および冶金的劣化を伴う応力腐食割れの可能性があり、使用条件がそれらの機構の発生必須条件を満たしているかどうかを判断することで、割れ原因を特定できる。常温での使用であれば、クリープ、侵食および冶金的劣化の可能性はなく、疲労と応力腐食割れに絞られる。疲労には、応力(ひずみ)の繰返しが必須で、振動、温度変動などによる応力(ひずみ)の繰返しを確認することで特定できる。応力腐食割れは、材料と環境の組合せで決まるが、その発生条件については専門的判断が必要になる。また、割れの破面や進展の形態を観察することで、疲労と応力腐食割れを区別することが出来る。
高温での使用の場合、クリープ、侵食および冶金的劣化を懸念する必要がある。材料ごとに発生条件が異なるので、材料別のデータおよび専門家の判断が必要となる。
2.2 減肉が発見された場合
減肉の場合、腐食(乾食、湿食)、磨耗およびエロージョンが懸念される。固体同士が擦れ合う場合、磨耗が懸念され、流体(液体、固気混相、固液混相)中で使用される場合、エロージョンが懸念される。それ以外は腐食と考えてよい。腐食には、全面的に均一に肉が減る全面減肉と局部的に肉が減る局部減肉がある。全面減肉(腐食)は観察が容易で、定期的に肉厚を計測することで減肉速度および寿命を管理することができる。一方、表面では点状の小さい穴であるが、内部に深く減肉が進展する孔食、ボルト締付部のような狭隘部でのすきま腐食のような局部減肉は見付けること自体が難しい。腐食機構を十分考慮して、そのような機構が発生しやすい部位を特定し、適宜点検する必要がある。
3.損傷防止
損傷劣化機構を知ることで、設計、製作時にその発生を防止することが可能となる。表1の発生必須条件を除去することで、発生を回避できる。応力腐食割れのように環境、応力、材料の3要因が必須な機構については、その1要因を除去することで発生を回避できる。また、高温で使用される部材の場合、クリープを回避することは難しいが、その場合には、余寿命評価を適宜行うことを前提とした設計、製作を行うことになる。
4.おわりに
今回提供した損傷劣化機構一覧表は、国内外の文献を参考に作成しました。分類方法には、専門家の方々には異論もあり、概説にも不十分なところがあると思われます。しかし、設計、製造、保全の現場で、材料の損傷劣化問題を扱う方々に少しでもお役に立てればと願っています。各位のご意見、ご要望を歓迎します。
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(株)ベストマテリア
木原重光