「鉄鋼材料の実務知識」の第4回「鋼材の損傷機構について」に示した「材料特性劣化を原因とする脆性破壊や腐食損傷」をさらに詳細に分類して解説する。
損傷 | 解説 |
鋭敏化 | オーステナイト系ステンレス鋼が550〜850℃の範囲に曝されたときに、粒界にクロム炭化物が析出し、粒界近傍にクロム欠乏層ができ耐食性が低下する。これを鋭敏化と呼ぶ。鋭敏化されたステンレス鋼がSCC環境に曝されると粒界に沿った割れが発生する。この割れは「粒界炭化割れ」と呼ばれることもある。 |
シグマ相脆化 | 高温にステンレス鋼を曝すことにより、シグマ相と呼ばれる組織を形成し、常温における延性、靱性が低下する。 |
高合金鋼およびNi合金はガンマプライム相による析出強化で高温強度を持たせるが、準安定相であるため、高温で長時間使用するとε相と呼ばれる板状粗大な相が析出し脆化する。 | |
歪時効 | 中間温度域で時効と変形の相乗効果により、炭素鋼やC-0.5Mo鋼の硬さと強度が上昇し、延性および靭性が低下する現象である。1980年以前に製造された炭素鋼および0.5Mo鋼に限られる現象である。 |
焼戻し脆化 | 焼戻し脆化は低合金鋼が343〜593℃の温度域で長時間曝されているときに起こる組織の変化に伴い靭性が低下することである。この変化はシャルピー衝撃試験により計測される延性脆性遷移温度上でシフトする。靭性の低下が運転温度においてはっきりわかるわけではないけれど、焼戻し脆化した装置は運転開始から終了までの間、脆性破壊の感受性がある。 |
475℃脆化 | Cr量12%以上 のフェライト系、マルテンサイト系および二相ステンレス鋼の316〜540℃での長時間加熱により起こる。金属組織の変化により、強度(硬さ)上昇と靭性低下が生ずる。 |
軟化(過時効) | 高温440〜760℃の範囲に曝された鋼の結晶構造が変化し、炭素鋼の炭素相が不安定になり、平板状の形から楕円形の塊に変形するか、低合金鋼中で小さいものから分散し、最終的に大きな炭素の塊になる。軟化によって、強度・クリープ抵抗が減少する。 |
シグマ相とカイ相脆化 | オーステナイト合金で有害な相の形成であり、650〜870℃の範囲に長時間曝されたときに起こる。高クロム合金で感受性が高い。 |
炭化物球状化 | 炭素鋼と低合金鋼で層状パーライト組織中に含まれる板状炭化物が徐々に分解する。球状化は850〜1400°F(440〜760℃)で起こり、1025°F(552℃)を超えると活発になる。強度低下(軟化)が生ずる。 |
照射脆化 | 中性子の照射により引張強さは変化しないが、硬くなり降伏応力が上昇する。その結果、延性-脆性遷移温度が上昇し、室温においても脆性破壊を起こすようになる。なお、オーステナイト系ステンレス鋼においては、377〜627℃の温度範囲でボイドが形成され靭性が低下する。 |
体積膨張(スウェリング) | 中性子照射によるボイド形成によって体積膨張(スウェリング)が起こる。嵩密度が減少する。 |
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木原重光