鋼材の多くは、熱処理して使用され、熱処理条件の選び方で特性が大きく異なる。
自社で熱処理を行う場合、設計者の要求事項を工場熱処理部門に正確に伝えることが重要である。また、熱処理を外注する場合は、設計者の要求事項を正確に伝えるとともに、正しい熱処理条件を選べる能力を持った熱処理会社を選ばなくてはならない。
機械構造用炭素鋼として使用頻度の高いSxxC材は、化学成分(5元素)のみが規定され、強度規定はない。このような鋼種は、熱処理によって機械的特性を自由に変化させられるので、その自由度を確保するために、強度規定を設けていない。しかし、このような鋼材ではトラブルが多い。設計者の要求特性に対して、熱処理条件を誰が決めるかを明確にしておくことが重要で、設計者側で決めることが望ましいが、できない場合、信頼できる熱処理会社を選び、設計者の使用目的(機器部品名など)、要求特性(強度、靭性など)、使用温度、環境について正確に伝えることが必要である。
熱処理を施して使用する鋼材の選定において、重要なポイントは、鋼材の焼入性と質量効果である。
焼入性(hardenability)とは、表面がどのくらい硬くできるか(硬焼き)およびどのくらいの深さまで硬くできるか(深焼き)で表現される。一般的には、深焼き性を焼入性と表現することが多い。硬焼きは、鋼の炭素量で決まり、深焼きは炭素量、合金元素量および結晶粒度によって決まる。B、Mn、Mo、Crが焼入性(深焼き)を良くする主な元素である。結晶粒度は大きい方が焼入性が良いが、結晶粒度が大きい鋼は機械的特性が劣るので好ましくない。
焼入性は、DI(インチ)で表現され、中心部まで焼きが入る最大直径(インチ)で、DIが大きいほど焼入性が良いことになる。下表には、各鋼種のDIと相対価格(炭素鋼を1として合金元素量から想定したもの)を示す。DIがほぼ同じでも価格が違うものがあり、鋼材の特性を十分知ることで、コストダウンも可能なことを示唆している。
鋼種 | 合金元素 | DI(インチ) | 相対価格 |
S45C | 炭素鋼 | 0.85 | 1 |
SMn438 | 1.5Mn | 1.46 | 1.1 |
SMnC443 | Mn-0.5Cr | 3.35 | 1.1 |
SCr440 | 1Cr | 2.6 | 1.2 |
SCM435 | 1.1Cr-0.23Mn | 4.2 | 1.25 |
SNC836 | 3.25Ni-0.8Cr | 4.7 | 2.6 |
SNCM625 | 3.25Ni-1.25Cr-0.23Mo | 8.8 | 3.1 |
質量効果(Maas effect)とは、熱処理の結果が鋼材の化学成分だけでなく、質量(部品の大きさ、形状)によって違ってくることをいう。一般に鋼材が太くなるほど熱処理の効き方が小さくなる。また、質量効果も鋼種によって異なっており、炭素鋼は大きく、SCMやSNCM材は質量効果の小さい鋼である。大きな部品を製作する場合、部品深さ方向における要求強度を考慮して、鋼種および熱処理条件を選定する必要がある。
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木原重光