疲労破壊を防止するために

 金属材料は一定の負荷(荷重)を加えると、一定の変形(弾性変形)をして、それ以上変形は進まず、腐食による減肉などがなければ、永久にその形を保つことができる。しかし、繰返しの負荷を受けると、徐々に局部的な変形が進行し、最終的に破断に至る。疲労と呼ばれる。
 疲労破壊は、機械、構造物の破壊の原因として最も多いものである。2年前のエクスポランドのジェットコースター(風神雷神)で1名が死亡、19名が重軽傷を負った事故は、車軸の疲労破壊が原因であったことは記憶に新しい。歴史的に有名な1954年の世界初のジェット旅客機コメットの空中分解は機体窓コーナーからの疲労破壊が原因であり、1985年の日航ジャンボ機の御巣鷹山墜落は、後部圧力隔壁の疲労破壊が原因で大惨事になっている。
 疲労強度は、応力(S)と破壊までの繰返し数(N)の関係を示すS-N線図で表現される。材料の疲労特性のデータとしては、NIMS物質・材料データベースの疲労データベース(https://tsuge.nims.go.jp/top/fatigue_jp.html)を参照されることを推奨する。

高サイクル疲労
 回転機の疲労のような高繰返し速度(高サイクル)で高い繰返し数で破壊する疲労を高サイクル疲労と呼ぶ。高サイクル疲労に対しては、一般的に引張強さの高い材料が、疲労強度が高いといえる。
 鉄鋼材料には、これ以下の応力では疲労破壊が起きない疲労限が存在し、疲労が懸念される部品は、応力を疲労限以下にするように設計されるべきである。しかし、材料毎の疲労限の値は、明確に規定されているものではなく、信頼できるデータから設計者が読み取ることになる。また、オーステナイト系ステンレス鋼では、明確な疲労限が存在せず、106回で破壊しない限界応力などを基準に設計することが多い。
 繰返し負荷を受けるところには、高強度材料を選ぶべきであるが、高サイクル疲労特性は、材料の表面粗さに影響されるので、表面粗さを小さくすることは疲労破壊防止に有効である。また、表面に圧縮残留応力を与えて、実質引張応力を下げることも有効である。実際には、ショットピーニングが、表面に圧縮残留応力方法として使われている。
 高サイクル疲労破壊の事例には、破損部位以外の周辺部の振動が原因であるケースも多く、そのような場合、その振動源を除去することが最大の防止策となる。

低サイクル疲労
 設備の運転停止の繰返しのようなゆっくりした変動に対応する応力の繰返しによって起こる疲労を低サイクル疲労と呼ぶ。低サイクル疲労を材質選定のみで回避することは極めて難しい。高強度材料が必ずしも低サイクル疲労強度が高いとはいえない。むしろ、破断延性および熱膨張係数が大きな因子となる。
 低サイクル疲労は、大型厚肉部材での発生が多く、部分的温度差、時間的温度変動による熱応力の繰返し、通常の外部応力および各種残留応力の重畳作用によることが多い。従って、防止には先ず応力解析が必要であり、応力集中部(形状が急激に変化する部分)の排除など、設計上および運転上の工夫が必要である。
 材料の低サイクル疲労特性データ、また応力解析に必要な物性データなども、規定されたものは少なく、設計者の信頼できるデータを探すか計測することが必要になる。

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(株)ベストマテリア
木原重光