損傷を考慮した材料選定

 鋼材を使用する際には、第4回で述べた損傷機構を考慮し、損傷を防止するように設計、材質選定、加工を行わなければならない。
 材料は、腐食環境、熱(温度)、負荷のもとで使われる。

腐食対応
 常の大気も、炭素鋼などを放置すれば、錆が発生するので、立派な腐食環境である。しかし、材料は通常大気中で使われており、機械的性質など多くの材料特性は大気中の特性である。従って、鋼材を大気中で使う場合、環境を意識して材質選定をする必要はないが、海岸の近くで海水からの塩分が飛来する環境では、塩分による腐食を考慮しなければならない。特にステンレス鋼を使用する場合、応力腐食割れ(SCC)発生の可能性があるので、塩分によるSCCに耐える材料を選定しなければならない。
 腐食には、材料、環境、温度の組み合わせで、全面腐食、局部腐食(孔食)、SCCなどの異なる損傷モードがあり、使用条件から腐食を予想し、耐えられる材質を選ばなければならない。腐食に耐える材料の選定には、十分な専門知識とデータが必要である。また、腐食対策は電気防食、塗装などの方法もあり、むやみに高価な耐食材料を使用することは好ましくない。専門家に相談してコストも考慮した適切な対応を考えるべきである。

高温対応
 金属材料は固体であり、常温では原子の移動が通常起こらないので、特性の変化は生じない。しかし熱を加える(高温)と原子の移動(拡散)が起こり、特性の変化が起きる。第3回に述べた熱処理は、高温での原子の移動を利用して、好みの特性を得る手段と言えるが、高温使用中の原子の移動は、特性を好ましくない方向に変化(劣化)させることになる。高温での材料使用では、劣化を考慮して材料選定する必要がある。
 また、常温では一定の荷重下では時間とともに変形が進行することはないが、高温では、徐々に変形が進行(クリープ)する。クリープが起こる温度は材料ごとに異なっており、高温で材料を使用する場合、その温度でクリープしない材料を選定するか、クリープの進行を監視(寿命予測)しながら使用することになる。

負荷対応
 金属材料は一定の負荷(荷重)を加えると、一定の変形(弾性変形)をして、それ以上変形は進まず、腐食による減肉などがなければ、永久にその形を保つことができる。しかし、繰返しの負荷を受けると、徐々に局部的な変形が進行し、最終的に破断に至る。疲労と呼ばれる。引張強さの高い材料は、一般的に疲労強度は高いといえるので、繰返し負荷を受けるところには、高強度材料を選ぶべきであるが、実際の疲労破壊は応力集中部(形状が急激に変化する部分)で発生するので、応力集中部を排除するような設計上の工夫があるべきである。
 また、負荷には、衝撃的負荷、熱応力(高温における材料の熱膨張と拘束によって発生する)、固体同士の摺動による表面負荷、流体が衝突することによる負荷などがあり、それぞれに対応が必要である。

材料選定における注意
 材料を常温、大気中、静的負荷条件で使う場合、所定の強度を満足する材料を選定すればよいことになるが、上述したような特殊、複雑な条件で使用する材料を選定する場合、専門家の判断を求めるべきと言える。
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(株)ベストマテリア
木原重光