鋼材は何度まで使えるか?
使えるかどうかの判断は、低温では脆性破壊が起きるかどうか、高温では腐食(主に酸化)と強度低下が許容できるかで決まる。
1.低温使用限界
オーステナイト系鋼(面心立方体)は、アルミニウム、銅などと同様に低温でも脆性破壊しないため、低温での問題なく使用できる。圧力容器の設計基準であるガス事業法、ガス工作物技術基準の解釈例(2008)では、-268℃(液体ヘリウム温度)までの使用が認められている。
一方、フェライト系鋼(体心立方体)は、低温で脆性破壊するので、脆性破壊しない限界温度が使用限界温度となる。脆性破壊はシャルピー衝撃試験の吸収エネルギー値および脆性破面率によって確認できる。温度と吸収エネルギー値および脆性破面率の関係をとると、脆性遷移温度と呼ばれる吸収エネルギー値が急激に低下する(脆性破面率が上昇する)温度がある。この遷移温度が低いほど低温脆性破壊の発生しにくい材料であり、相対的に低い温度まで使用可能といえる。しかし、実際の脆性破壊は温度と板厚で決まる(板厚が厚いほど脆性破壊が起きやすい)。そこで、材料の低温使用限界温度は板厚を基準に決めるべきである。圧力容器の設計基準の一つであるJIS B8267では、鋼種を4レベルに分け、使用温度(縦軸)と板厚(横軸)による衝撃試験免除曲線を示している。この免除曲線の下側(低温、板厚大)で使用する場合、衝撃試験を行って、シャルピー吸収エネルギーが20J以上あることを確認しなければならないとしている。例えば、JIS G3103ボイラ及び圧力容器用炭素鋼およびモリブデン鋼鋼板 SB410では、板厚10mmで-28℃、板厚20mmで-8℃、それら以下の温度で使用する場合、衝撃試験を行うことが必要となる。
なお、圧力容器関連法規の技術基準における材料の許容応力表には、鋼材の低温使用限界温度が示されており、参考にすることができる。因みに水力、火力、電気設備の技術基準の解釈において、SB410の低温使用限界温度は-10℃(板厚制限無し)となっている。
2.高温使用限界
材料の高温での使用は、実務知識シリーズ第9回で述べたように特定の鋼材で特定の温度で材料特性の著しい劣化が見られるような場合を除いて、基本的に強度の低下と酸化減肉速度を考慮して使用者が設定できるといえる。 強度の低下と酸化減肉速度を考慮した限界温度の目安としては、ASME(米国機械学会)Boiler and Pressure Vessel Design Code(国内の圧力容器関連法規の技術基準、JIS B8265,8267も同じ)の材料の許容応力表において、許容応力値が設定されている温度を上限温度として使える。この上限温度は、大気中の酸化速度が、0.05mm/year以下になる温度としていると言われている。
JIS B8265に示されている主な鋼材の上限温度を下表に示す。
鋼種 | 基本組成 | 上限温度 | 鋼種 | 基本組成 | 上限温度 |
SB410 | 炭素鋼 | 550℃ | STPA22 | 1Cr-0.5Mo | 650℃ |
SM400A | 炭素鋼 | 350℃ | SUS304HTB | 18Cr-8Ni | 800℃ |
SBV1A | Mn-0.5Mo | 525℃ | SUS310STB | 25Cr-20Ni | 800℃ |
SCM430 | 1.1Cr-0.23Mo | 400℃ | NCF800HB | 33Ni-21Cr | 900℃ |
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木原重光