「鉄鋼材料の実務知識」の第4回「鋼材の損傷機構について」に示した「腐食」をさらに詳細に分類して解説する。
損傷 | 解説 |
乾食 | 腐食には液体中で材料が溶出する湿食と気体中で材料が溶出する乾食がある。一般に高温腐食が乾食である。 |
酸化 | 腐食した金属が酸化物を作る反応。 |
高温酸化 | 高温の酸化性気体との接触により化学的に反応して金属表面に酸化物スケール(酸化皮膜)を生じ、スケールの割れ、剥離により進行していく腐食である。金属表面に形成される酸化物スケールは、スケール内部の酸素ポテンシャルの変化に対応して層状構造をなすという特徴があり、構造は酸化物を形成する温度とスケール厚さに対応して変化する。高温酸化ではスケールが成長し続けるために、ついにはスケールに割れ、ボイド、ブリスターを生成し、金属表面から剥離する。また、金属蒸気、酸化物気体が生じ、その気圧によってスケールが局部的に破壊される。 |
大気腐食 | 湿性大気中で起こる腐食形態。海岸環境や汚染物質を含む工業汚染大気中で最も著しい。オーステナイト系ステンレス鋼では応力腐食割れとなる。 |
外面腐食 | 接触する外気による腐食の総称(参照T-04,T-20,T-23,S-05) |
水蒸気酸化 | ボイラーの過熱管器、再熱管器、主蒸気管などにおいて、水蒸気中での鋼の高温酸化が見られる。水蒸気中の酸素分圧は600℃で10-7程度と小さいが、Cr2O3皮膜が破れて異常酸化が生じ、大気中よりも厚いスケールが生成することがある。水蒸気流速、水蒸気圧力は酸化速度にさほど影響せず、酸化温度と酸化時間が主な影響因子となる。 |
浸炭酸化 | ステンレス鋼では浸炭により炭化物が析出すると、その近傍はCr欠乏層となり異常酸化の原因となる。この異常酸化の一つにメタルダスティングがある。 |
低酸素ポテンシャルかつ高炭素ポテンシャルである雰囲気中で450〜850℃の温度範囲で生じる。浸炭により炭化物が形成され、その後分解して黒鉛を生成する。また、Cr欠乏層が異常酸化される。腐食生成物は炭化物、酸化物、黒鉛によりなるダストであり、ここでの異常酸化が、炭化物析出がもたらす周辺のCr欠乏を前提とするのか、炭化物析出分解自体によるのか、というのは不明な点が多い。 | |
金属がF,Cl,Br,Iなどのハロゲン元素のガス中においてハロゲン化合物を生成し、それが揮発することにより生じる腐食である。腐食生成物としてのハロゲン化金属(FeCl2,FeCl3,CrCl3など)は蒸気圧が高く保護性酸化皮膜を形成しないため著しい腐食を引き起こす。ハロゲン化腐食部の断面には目の粗いスケールとF ,Clなどが残存していることが多いが水溶性であるために断面観察には注意が必要である。 | |
HClやCl2に曝される鋼材では腐食生成物となる金属塩化物の蒸気圧が高いため、使用温度によっては腐食スケールが蒸発してしまい、保護皮膜として安定に存在できず、鋼材が腐食損傷を受けることがある。ガスの腐食性はHClよりCl2のほうが高く大きい。ガス中に酸素が共存する場合、ステンレス鋼のようにCr2O3皮膜が鋼表面に均一生成するような材料はガスがCr2O3と反応して蒸気圧の高いCrO2を生成するため鋼は腐食される。 |
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木原重光