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鉄鋼材料の損傷機構一覧表 =腐食(SCC:その1)=

「鉄鋼材料の実務知識」の第4回「鋼材の損傷機構について」に示した「腐食」をさらに詳細に分類して解説する。

損傷 解説
応力腐食割れ(SCC) 腐食は環境中で表面が溶解する現象である。引張応力の存在下では、陽極溶解が局所的(保護皮膜の弱い部分など)に加速されき裂が発生し、さらにき裂先端の陽極溶解によってき裂が進展する。これを応力腐食割れ(SCC、Stress Corrosion Cracking)という。狭義には活性経路割れ(APC, Active Pass Corrosion)という。類似の環境脆化現象に水素脆化(HE, Hydrogen Embrittlement)がある。HEは材料内部(環境から侵入したものを含む)の水素がき裂先端近傍に拡散し、き裂進展を助長する現象であり、遅れ破壊ともいう。また、水素誘起割れ(HIC、Hydrogen Induced Cracking)は圧延過程で生じた組織の不均一部に水素が集まり、ガス圧により圧延方向に平行に亀裂が入るものである。腐食過程ではカソード反応として必ず水素が発生するから、実際の現象では、アノード溶解反応と水素イオンのカソード還元反応の両者が関与している。そのため、広義にはAPCとHEの両者を区別せずに、応力腐食割れと呼ぶことがある。応力腐食割れは環境脆化の一種である。 応力腐食割れは環境、材料と引張応力の組合せのもとで生ずるが、応力は数MPa程度で十分なので,防止方法として,応力を低下させる方向での対応は適当でなく、環境の改善と適切な材料の選定で防止するのが一般的である。 腐食を嫌う環境ではステンレス鋼が使われることが多く、応力腐食割れは、ステンレス鋼で問題になることが多い。ステンレス鋼の応力腐食割れは、主に隙間腐食や孔食などを起点とし、塩化物を含む溶液中での発生が多いが、強腐食性環境ばかりでなく、100℃程度の淡水や原子炉冷却水中(溶存酸素濃度、pHなどの条件によって)でも発生する。また、塩化物を含む大気(特に保温材下など)環境でも発生し、ESCC(External SCC)またはASCC (Atmospheric SCC)と呼ぶ。 割れの進展は、結晶粒界(ステンレス鋼のCr欠乏層など)および結晶粒内を径路とするものがあり、それぞれ粒界応力腐食割れ(IGSCC、Intergranular Stress Corrosion Cracking)および粒内応力腐食割れ(TGSCC、Transgranular Stress Corrosion Cracking)と呼ぶ。
硫化物応力腐食割れ(SSC) 硫化物応力腐食割れは湿性H2S環境の存在する所で引張応力と腐食が同発することで発生する割れである。SSCは金属表面の硫化物腐食によって生じる水素原子の吸収による水素応力腐食割れ形態である。SSCは熱影響部や溶接部におけるきわめて狭い高硬度部分の金属表面から発生する。この高硬度域はしばしば、最終溶接パス部や焼き戻し(軟化)がされていない取り付け溶接部に見受けられる。PWHTはSSC感受性に関わる硬さや残留応力を低下させることができる。高強度鋼もSSC感受性が高いが精錬工場で利用されるものに限られる。炭素鋼は通常の応力除去温度で焼き戻ししていない熱影響部に硬い残留領域がある。予熱によりこの硬さを最小化できる。
H2S中水素誘起割れ
水素助長割れ 湿潤硫化水素環境で用いられる炭素鋼や低合金鋼に生ずる割れで、硫化水素応力腐食割れ(SSC: sulfide-stress cracking)とは異なって,圧延方向に延びたき裂を特徴とする.すなわち,HICの割れの形態は基本的には,鋼の圧延方向に平行な割れ,これらの平行き裂が互いに干渉して連結した階段状の割れ,および表面近傍の割れによるふくれの3種類である.これらはその形態から,ステップ割れ,ブリスターとも呼ばれる.割れ近傍には大きな塑性変形が誘起されていて,主に擬へき開破面を呈する.作用応力や残留応力とは基本的に無関係に発生する.ラインパイプや油井管のような鋼管,あるいは圧力容器や石油精製機器に用いられる鋼板で事例が多い.湿潤硫化水素環境でラインパイプ鋼等に発生するHICは,油井管,LPGタンク等に発生するSSC,あるいは自然環境で高力ボルトに発生する遅れ破壊(DF: delayed failure)に比して,低強度の,軟鋼に属する,材料に発生することを特徴とする.いわゆる,“SO=HIC (stress-oriented HIC”は,微細な介在物を起点として外部からの負荷応力の存在下で成長するHICの一形態である。
水素誘起割れ (HIC)
応力方向性水素誘起われ(SOHIC) HICに似た機構であるが、この割れはHICよりも致命的な、表面に集まった割れとなって表れる。その結果、高い残留応力・負荷応力によって発生する割れは表面に垂直に貫通する。HIC損傷、硫化物応力割れなどによる割れ・欠陥から発生し、通常は溶接熱影響部に隣接した母材部に現れる。
腐食でお困りの問題がありましたら、MatGuideのお問い合わせページから、または直接下記へメールで、ご相談ください。

s-kihara(at)b-mat.co.jp【(at) を @ に替えて下さい。】
(株)ベストマテリア
木原重光

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