「鉄鋼材料の実務知識」の第4回「鋼材の損傷機構について」に示した「腐食」をさらに詳細に分類して解説する。
損傷 | 解説 |
HCl、H2Sの鉄に対する循環的腐食作用によりHClが消費されず、ごくわずかのHClの存在でも腐食が著しく進行する現象である。鉄の場合、まずHClがFeと反応し、FeCl2を形成するがH2Sの作用により、再びHClになり、新たにまたFeと反応するという循環を繰り返す。孔食、あるいはデポジットアタック(付着物下腐食)などの局部腐食を多く発生する。 | |
CO2腐食 | 天然ガス、原油の輸送環境における主に炭素鋼の腐食。120℃以上では保護膜の形成によって、腐食は抑制される。60℃以下では全面腐食、中間温度では保護膜の形成状況により不均一腐食となる。Cr添加によって腐食は抑制される。 |
フェノール腐食 | 潤滑油供給原料から芳香族を取り除くためのフェノールを溶媒として使用するプラントにおける炭素鋼の腐食。 |
リン酸塩腐食 | (燐酸アタック) ボイラ水を規格どおり維持のための燐酸連続注入によりその部分が燐酸腐食を起こして破損する。 |
液体金属腐食 | 原子力発電において熱媒体としてNaなどの液体金属が使用され、液体金属腐食が問題となる。ステンレス鋼を液体金属と接触させて使用する場合に、耐食性を維持させる方法は次の二つのケースに大別できる。第一はステンレス鋼表面の酸化皮膜が液体金属と実質的に反応しない場合で、ステンレス鋼表面に積極的に酸化皮膜を形成させ、この皮膜により液体金属腐食を防止する。第二は液体金属がNa, Alなどのようにきわめて活性なため、ステンレス鋼表面の酸化皮膜が還元されてなくなってしまう場合で、ステンレス鋼と液体金属が直接に接触する。この場合、ステンレス鋼成分の溶解が選択的に起こり、表面組成が変化したり、液体金属との合金層を形成したりしながらステンレス鋼は液体金属に溶解していく。ステンレス鋼成分の液体金属への溶解度が小さい場合にのみ耐食性が維持できる。 |
孔食 | 材料表面の不動態皮膜の破壊によって生じる局部腐食である。塩化物環境での事例が多く、塩化物を含む水環境中で不動態化した金属表面に凹み状の溶解箇所が拡大していく腐食形態となる。孔食は、孔の貫通による漏洩、応力腐食割れと腐食疲労亀裂発生の起点となる場合がある。孔食は不動態皮膜の破壊によって生じ、孔の底部では溶解反応が、不動態皮膜表面では溶存酸素の還元反応が生じるので、孔の内部ではCl-イオンとH+イオンの濃縮により再不動態化が阻止され、孔食の進展が加速する。金属酸化物(錆こぶ)の下に孔食が生じている場合が多いので注意が必要。 |
すきま腐食 | 材料表面の異物付着または構造上のすきま部分に生じる酸素濃淡電池作用による局部腐食である。ガスケットと部材間のすきまなど、バルク溶液との物質移動が妨げられた狭いすきまで生じる腐食で、腐食の機構は孔食に類似している。すきまでは、通気差電池(酸素濃淡電池)が形成され、すきま内部で溶解が開始する。さらにすきま内の塩化物イオンの上昇とpHの低下により、すきま内部をアノード、すき間外部をカソードとするマクロ電池が形成されて、すきま内部で激しい腐食を生じる。すきま腐食廃物付着によって、また腐食生成物のしたにも生じる。 |
ガルバニック腐食 | 電解液中で異なる金属が接触している時に起こる腐食形態。湿気・水溶液環境、もしくは湿性の土壌中で起こる。腐食電位が大きく異なる二種類の金属が電解質中で電気的に接触している場合に、電極電位の違いにより生じる腐食である。マクロなガルバニ電池が形成されて陽極(アノード)側の金属が腐食して減肉する現象であり、陰極(カソード)側の金属との電極電位差が大きいほど、分極抵抗が小さいほど、また電解質の電気伝導度が大きいほど腐食速度が大きい。なお、電極電位は平衡電位と異なり、金属表面の酸化皮膜の生成の有無、電解質の組成と条件などに大きく依存するので、注意が必要である。 |
異種金属接触腐食 |
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木原重光